「私はこの国を治める者の一人として、この国があらゆる種族の故郷になればよいと思っているのです。故郷とはただ生まれ育った土地というわけではなく、どんなに遠く離れた場所に行っても、ふとある時に帰ってみようかと思える場所です。あなたのその様子からするとこの国はあなた方の”故郷”になっているようですね」
「殿下……」
「この国を守りたい。ここは私にとっての故郷でもあります。それを守るために、私の祖先であるシエラが築き上げたものを守るために、私はヴェルズへ行くのです。あなた方のためでもあり、自分のためにも」
ジェラール王も王妃もユアンもラズラエザの民も皆、ステラを気の毒に思っていたが、
ステラ本人はさほど悲観的ではなかった。
幼い頃から自覚していたから。
王の地位にある者が、どのようにあるべきなのかを。
戦に加わり兵士とともに戦ったのも、
これ以上変わりゆく故郷を見たくなかったから。
かつて母から教わった医術を極めたのも、
人の死に行く様とその家族の姿が、まぶたを閉じるたびに浮かんでくるから。
すべては自分の意思で決めたこと。悲劇の王女なんかではない。
「私を……信じてください」
(私の行動が、意味のあるものになりますよう)
赤色の瞳の奥に秘められた決意の意味を知ったアリシアは、
ステラに対してラズラエザ最高の敬意の礼を表し、
森の奥へと去っていった。