風がぴたりと止み、森に静寂が広がった。


「ヴェルズの国民の多くは魔力を持たない”人間”だと聞いています。我々は皆、古の悪しき伝統がこのラズラエザで蘇るのではないかと恐れているのです。妖精狩りや……虐殺のような……」



かすかに声が震えていた。



妖精は清らかで、とても弱い種族。


歴史上でもその純粋な心を利用し、奴隷として扱う者が多く存在していた。


初代国王シエラは、妖精に限らず、

「どの種族も互いに認め合い、共存できる世の中を」

という精神のもと、このラズラエザ王国を建国したのであった。


それから1000年たった今でも変わらず、

人間、魔法使い、妖精、鬼の四種族が共存する、世界でも数少ない国となっている。



そんな1000年の良き伝統が今、終焉を迎えるのではないかと、

多くのラズラエザ国民は不安を抱き、

それと同時にステラに期待していたのであった。



「もしも……もしもこのラズラエザがヴェルズのような統一主義国家となってしまうのであれば、私は頭領として、一族を連れてここを離れねばなりません」



ふわりと風が森を駆け、静まっていた木々が再びざわめき始めた。


ステラは揺れる髪の片側を耳にかけ、頭領を見つめた。



「頭領殿。あなたは……この国が嫌いですか?」



アリシアは伏せていた頭を即座にあげ、否定するように首を横に振った。



「とんでもありません!私は……我々はただ……」



「そうではないのです。誤解を招く言い方をしましたね」



ステラはアリシアと目線を合わせるように膝をついた。