(ゆっくり野風呂に入るなんて最近なかったわ……)


早朝の肌寒さも、今は逆に心地よく感じる。

今度お忍びで来ようかと密かに思うものだった。



「……!?」



湯につかって身体の芯が温まってきたとき、

ふと背後から視線を感じた。


だが振り返っても誰もいない。


気にはなったが、殺気は感じなかったため、身構えることはしなかった。



(でも、そろそろ上がったほうがいいわね。のぼせちゃいけないし)



そう思い、ステラは名残惜しそうに野風呂を後にした。







風魔法と熱魔法の融合で髪の毛を乾かし、旅着に着替え終わった直後だった。



「王太子殿下」



呼ばれた方向に振り向くと、黄金色の長い髪の女性が膝をつき頭を下げていた。



「……あなたは?」



「エルフ族の統領、アリシア・レシェールでございます」



エルフ族――古くからこの森で狩りをして暮らしている妖精の一族だ。

その中でもレシェール家は代々エルフ族をまとめる頭領の一家である。



「エルフ族……頭領殿がなぜここに……」



「王太子殿下が近くに来られていると聞き、一族を代表して殿下にどうしてもお尋ねしたいことがあり、参りました。……このような場所で呼び止める無礼をお許しください」



光線のようにまっすぐにステラを見る金色の瞳が、話の重大さを物語っていた。



「無礼など、とんでもありません。何なりと」



アリシアはバツが悪そうに再び下を向いた。



「……エルフ族に限らず、我々妖精は……ヴェルズに支配されたのち、殺されるのでしょうか」



「え……」