女将は多くの文官たちを相手にしていることから、巧みな話術の持ち主で、
長く話をしてみても飽きることはなかった。
話を聞いていると、女将はかつてラズラエザ王宮で侍女長をしており、
定年退職後にこの宿を開業したらしい。
部屋までの廊下を歩いていると、《天然野風呂》と書かれてあるのれんが見えた。
「この宿は野風呂があるのですか?」
女将はにっこりとした表情を浮かべて答えた。
「ええ。でも今の時間じゃあ、なあんにも見えやしませんから、入るのでしたら朝がいいですねぇ。それも早朝が。木の隙間から入る光がきれいですよ」
「へぇ~」
「部屋にも備え付けのお風呂がありますんで、今晩はそちらをお使いくださいね」
部屋に入り、夕食で森の幸を堪能した後すぐに、
宰相と明日からの旅の打ち合わせが始まった。
「殿下。明日は半日かけてこの森を出た後、近くに宿がありますのでそこで一泊し、明後日は港から船でヴェルズへ向かいます。明日の朝食を召し上がるとすぐにここを発ちますが、よろしいですか?」
「ええ……そうしましょう」
どこか上の空で、ぼおっとしてしまっているステラに、
宰相は言った。
「殿下。お一人で滞在なさることは、殿下に何か思惑があってのご決断でしょうから何も申しません。ただ、あなたは人質としてではなく王太子としてヴェルズへ行くのです。もっと堂々としてもよいのですよ。戦を終わらせたこちら側に、後ろめたいことは何もないのですから」

