「...ほゎー....」
_ドンッ
ドサ..
ぼーっとしていて周りが見えなかったせいか、誰かにぶつかって、尻餅をついてしまった。
「っ..あっ!ごめんなさい!」
「..いったいのぅ...」
急いで立ち上がり、相手を見た。
ぶつかった相手は腰に刀を差しており、髪を髷にし、少し体が縦横に幅が広く、顔を赤らめ酔っぱらっている様子だった。
見た感じ、侍のように見える。
「おぬし、どこを見て歩いておるのじゃ!」
「っ!ご、ごめんなさい!!」
慌てて謝ると、侍は短い溜め息を吐き、徐(おもむろ)に私の腕を掴んで歩き出した。
え!?なに!?
「あ、あのっ....!」
「着いて来い。おぬし、格好は珍奇(ちんき)じゃが、面(おもて)はなかなかじゃからな。酌(しゃく)に付き合え」
ぇえ!?どういうこと?何でそんなことに....。
「ぁあ、あの、さすがにそれは....」
「なんじゃと?わしに刃向かうというのか」
そう言い、歩いていた足を止めこちらに振り返り、私を睨む侍。
「ぃ、いや、刃向かうとかではなく....」
「なら良かろう」
そして、また歩き出した。
話最後まで聞いてよ!
何なの、この人....。
どこかのお偉いさんなのかな...?
..ぁあ!今はそういうことじゃなく、この場を脱出しなきゃ!
「あ!あの!っやっぱりダメです!」
私は慌てて、つい、乱暴に手を離してしまった。
それが、相手の沸点になるとも知らずに....。
「...何をするのじゃ!わしに手をあげるとは、身の程知らずめが!」
下げていた顔を上げてみると、侍が顔を真っ赤にさせながら、刀の柄(え)に手を添えているのが目に入った。
そして、いつの間にか、私たちの周りに一定の距離を置いて、人がたくさん集まっていることに気が付いた。
「っ!ごめんなさい!」
私は、頭を下げて謝った。
侍は、気を興奮させているのか、刀を鞘(さや)から抜いて私に刃先を向けた。
「もう遅い」
謝っても許してもらえず、侍は私に斬りかかろうとした。
そういう時代だということを忘れていた私は、覚悟を決め瞼(まぶた)をギュッと閉じた。