おっさんに案内された部屋に行き、そこで改めて挨拶をする。



「あ、伊地野零と言います。今回は藤宮桜花さんに紹介されて来ました。」

零は柄にもなく緊張する。

実際今まで緊張することなど女の子関係以外では殆どなかった。

だが、どうしてこのおっさん前ではこんなに緊張してしまうんだ…。


「そう緊張しなんさって。俺は平川金次郎だ。お嬢の部活の後輩なんだろ?悪いようには扱わんよ。」

40代のおっさんに見えるのに妙に親しみやすい雰囲気・喋り方である。


「平川さんは桜花さんを知っているんですか?」


「平川さんて堅苦しい。『金さん』で良いよ。俺の知り合いは皆『金さん』って呼んでいるよ。」

金さんはそう言いタバコに火を付けて吸う。


「俺はお嬢の親父と仕事をしている者さ。主に裏で工作したり揉み消したりするの専門だ。簡単に言うと『フィクサー』だ。」

フィクサー…。聞いたことがある。

事件などを陰で調停・処理して報酬を得る人だ。


昭和の頃には沢山いたらしいが最近は『フィクサー』と言う単語すら知らない人が増えている。


フィクサーには、場を納める話術と人脈と財力が必要と言われているが、最近はそれらを持ち合わせている人がいないからフィクサーは日本にはいなくなったと聞いた。



「フィクサーはもう日本にはいなくなったと聞いていましたが、本当に金さんはフィクサーなんですか?」

相も変わらず零は緊張したままであった。


「フィクサーがもういない?馬鹿な事言っちゃいけないぞ。政治家や銀行員の不正がバレたら国が成り立たないだろ?俺たちはそれを常に揉み消しているんだ。俺たちはな、表に名前が出ないようにする為、裏でしか動かないんだ。だからみんなフィクサーは居なくなったと勘違いしてんだ。」


金さんの言っていることは理解できる。

政治家・銀行員は国の…日本国民の心臓とも言える金を扱っているんだ。


大金を扱うんだから不祥事は日常茶飯事だろう。

それが世間に公になれば間違いなく日本は国として機能しなくなる。


だからフィクサーとは例え表に名前が出なくても必ずいるものなんだ。