「…城をすぐに出たのは…自分なりのけじめでした。」
「ええ。」

 こんな話を女王陛下にするのが正しいのか、キースにはわからない。ただ、迷いが何かと問われれば、それに正直に答えないことも不誠実に思えた。

「王女の傍にいていい理由がない、と思ったからです。城にとって有益な人物として、あの時に城に居続けることはできないことがわかりました。私が素性を明かすことは、…あまりにもリスクが高いと判断したからです。」

 戦いの中でどうしても必要だった、ジアの魔力を一定量封印すること。それに成功したキースは、戦いが終わってから、ジアの体調や魔力の統制具合を見ながら少しずつ封印を解除してきた。そこまでは確かに役目があった。だが、そんなことができる人、いや、この場合は魔法使いが自分であるということを広く知られるわけにはいかなかった。

「城の者すべてが魔法、魔法使いと呼べるものに対して寛容な考えをもっているわけではないわね。」

 キースは静かに頷いた。

「それに、私はどこにも属していません。人間じゃない。魔法使いじゃない。でもそのどちらでもある。」
「ええ。そうね。それでもジアは、あなたがいいと言ったでしょう?」

 キースは目を伏せた。確かにそうだ。どんな時でも真っ直ぐに、想いを返してくれる彼女だから大切だと思ったし、守りたいと思った。

「ジアを想ってくれていること、よくわかっているわ。あの子、ちゃんとあなたに感謝を伝えているかしら?」
「それは…もちろんです!」

 今までたくさんの『ありがとう』をもらってきた。それこそ、返しきれないくらいには。

「それならいいの。あの子の今までを支えてくれてありがとう。できれば、というか願わくば、これからも支えてくれると嬉しいけれど。」

 そう言ってにっこりと微笑む姿がジアに重なって見えた。