* * *

 身体が何度もびくつく度に、申し訳なさで心臓が潰れそうだった。洋一が少なからず傷つくだろうことも、わかっている。それなのに、自分に降り注ぐ優しさに全てを預けてしまいたくなる勝手さを許してほしいと思ってしまうのだから、自分は我儘だと思う。
 口にした言葉は全て本心で、本当は言うつもりのなかったものだらけだった。それに、洋一に告白される予定だってそもそもなかった。

「…面倒な女を好きになったね。」
「面倒だとは思ってない。」
「じゃあ何だとは思ってるの?」
「…可愛い。」
「…ば、バカじゃないの?」
「…あのさ、そういうのも普通に可愛いからな、お前。」

 ドクドクと血液が異常な勢いで流れていく音がする。可愛いなんてさらっと言わないでほしい。その言葉にどう対応していいかなんてわからないのだから。それに自分は、可愛いなんて言われていいような人間じゃない。

「…明季が約束してくれんなら、俺も1個、約束するわ。」
「洋一が?何の約束?」

 少し頬の熱さが消えて、ようやく洋一の瞳に視線を合わせることができた。

「さっきみたいに、許可なく触らない。明季にとって、男が一律に怖いものだってのは、結構よくわかったつもり。」

 一瞬、傷ついた顔をした。それに傷つく権利は自分にないのに、心が鉛が落ちたみたいになるのだから、卑怯だ。傷つけているのは、紛れもなく自分だというのに。

「だから、ちゃんと許可取る。明季がだめな時には絶対触んない。とっさに危ない時とかは例外だけど、俺の意志だけで明季に触りたくなったら、…聞く。」
「…触りたくならないって選択肢はないの?」
「…悪いけど、ない。好きなやつ触りたくなるのは男の性。」
「…わ、わかった。じゃあだめって言う。」
「おい待てよ。だめじゃないときにもだめって言うなよ?」
「…大体だめだし。」
「大体だめでも、そのごく僅かなだめじゃないときまで潰すな。」
「…が、頑張る。」
「じゃあ、指切り。」

 すっと差し出された洋一の右手の小指。小指をゆっくりと絡めた。