あれから、明季の身体が強張ることはなかった。洋一が当たり前のように明季の隣にいることが増え、その向かいで圭介が美海を優しく見つめる姿を見せられる。そんな毎日が過ぎて、気付けば2月14日が迫っていた。

(…ああいう目で、好きな人を見つめるもんなのかぁ。)

 圭介の目がひたすらに優しいのは、わかっていた。美海に対してのみ。本人が意地悪とかそういうことではない。ただ、ひたすらに甘く優しい目で美海を見つめている。この人が大事で仕方がないと誰もが一目でわかるような、そんな目だ。

「明季、お前まさか浅井に惚れた?」
「はぁ?」

 有り得ない質問に、飲んでいたカフェモカを盛大にむせてしまった。気が付くと大学のカフェには明季と洋一だけが残っていた。

「いやだって、お前今日ずっと浅井見てたじゃん。」
「見てません。」
「明季をずっと見てた俺が言うんだから間違いねぇんだよ。」
「そこは間違ってほしいんだけど。」
「それで、そこんとこどうなの?」
「…あのねぇ、あたしが美海の幸せを奪うと思うの?」
「思わない。でも不安にはなる。」

 突然真剣な表情になった洋一を目の前に、明季の鼓動が早まる。

「ないってわかってる相手でも、そんな風に見つめられたことねぇから普通に羨ましくなる。」
「…っ…と、突然そういうこと言わないでくれる?」
「…ごめん。でも、最近そういうちょっと期待できる反応見せてくれるからからかった。悪い。」
「さいってー!」

 ボカボカ叩いても、洋一はニコニコ笑っている。余計に明季の頬の熱は高まるばかりだ。パッと腕を掴まれると、ぐっと顔の距離が近付いた。

「なぁ、もうちょっと?」
「な、何が?」
「明季が俺のになるまで。」
「ちっ…ちっがうし!違います!もうちょっととかじゃないし!帰る!」
「待てって。送る送る。一緒に帰ろう。」
「一人で大丈夫!」
「俺が心配だからだめ。一緒!」

 こういうところは強い。それが洋一という人間だ。