『たった一人の人間の命を庇うなど、やはり人間は分からない』

ぬらりひょんは、ゆっくりと私たちに近づいてくる。

「お母様……。お母様!」

「うっ……。凛、無事だね?」

「うん。私は大丈夫だけど……、お母様が!」

お母様の背中には、大きな刀傷があり、服は赤色に染まり始めていた。

私の頬にも、軽く血が飛び散っている。

「こんなの……、妖との戦いではよくあることよ」

お母様は、私を抱えたままゆっくりと起き上がる。

『やり返す力さえ残っていませんか、所詮は、お前さんもその程度の力だったということだ』

「あなたに何を言われても……、構わないけど……、大事な娘を狙ったことだけは許せない!」

お母様は、鋭くぬらりひょんを睨みつける。

『許せないなら、また反撃すればいいだけのこと。しかし、お前さんにはもうそんな力は残っていない』

「なんとでも言いなさい、すぐにでも騰蛇を──!」

『お前さん、そんなに無理すると』

ぬらりひょんは、お母様の目の前で止まると、杖から刀を抜き出す。

『死にますよ』

ひゅんっ──

何かを斬った音とともに、お母様の肩から血が吹き出す。

「お母様っ!」