「…。貴女が羨ましいです」

「えっ?」

菊夜さんは、庭に目を向ける。

「私は、貴方とは違います。私は、空様と一緒に戦うことはできません。傷の痛みも分かち合えません。私ができるのは、ただお傍にいることだけ…」

私は、このとき感じた。

菊夜さんも、私と同じくらい空を大切に想っていると。

「でもそれは、貴方にしかできないことです」

「えっ…?」

「私は、空と一緒に戦えて、傷の痛みも分かち合える。だけど、私じゃあいつの傍には居られない…」

「凛音様…」

「だから、貴方が空を支えてあげてください」

私から、菊夜さんの気持ちは奪えない。

「ありがとうございます。凛音様」

菊夜さんは、お腹を優しくさする。

「赤ちゃん、生まれるんですね」

「ええ、凛音様も身ごもったと聞きました」

「私は、まだまだです。だって、じっとしているより動いている方が、私には合うし」

「私も同じです」

私たちは、互いに笑いあった。

「子の名前は決まってるんですか?」

「はい、幸(さち)と書いて幸です」

「幸、いい名前ですね」

「凛音様は、決まっているのですか?」

「えっ!い、一応は…」

まずい、今自分から墓穴掘った!

「何と言うのですか?」

菊夜さんは、瞳を輝かせて私を見てくる。

「て、天です。し、秦が天にするって言っていました」

「天ですか、とてもいいお名前だと思います」

父親は仮にも秦だから、秦が考えたことにしておけばいいか。

「では、空様のところへ案内致します」

「ありがとうございます」

私たちは、再び歩きだした。