「そこに居るのは、分かってるのよ。出て来なさい」

お母様がそう言うと、どこからか下駄の足音が聞こえてきた。

『これはこれは、蘆屋家の当主ではございませんか』

お母様の目の前に現れたのは、背が低く、古い着物を来て、杖を付いて歩いて来るおじいさんだった。

「こんばんは“ぬらりひょんさん"、こんな夜遅くにどこに行くのかしら?」

『ちょっとした、散歩ですよ』

二人の間に沈黙感が漂い、風が後ろへ吹き抜けて行く。

『やはり、私と戦いますかな?』

「それが私の役目なの、あなたをここで、見逃すわけには行かないわね」

『今日は、運が悪い日ですな』

お母様は、一枚の符を取り出し、呪文を唱えると傍らに、十二天将の一人である『騰蛇(とうだ)』が姿を現す。

『ほう、これはこれは』

「あなた相手に、手加減なんてできませんからね」

お母様の合図と共に、騰蛇はぬらりひょんに向かって突っ込んで行った。

『さすが、蘆屋家の当主、蘆屋薫子(あしやかおるこ)。これは、ワシも本気を出さなくてはな』

「薫子には、触れさせない」

騰蛇の持つ大きな紅蓮の刀が、ぬらりひょんに向かって振り降ろされる。

『おっと』

しかし、ぬらりひょんはそれを簡単に避けてしまう。

『相変わらず、お前さんの刀は熱い』

「いつまでも、喋ってる場合じゃないわよ!」

すると、ぬらりひょんのすぐ近くに、符を持ったお母様がいた。