【凛空】

学校近くに来たところで、俺は足を止める。

鞄に入れておいた小さな花束を取り出し道の隅へと置くと、手を合わせて目を瞑る。

ここは、あいつの母親が亡くなった場所だ。

俺は毎日、学校に行く前はこうして花束を置いて手を合わせている。

眼を瞑れば今でも思い出すあいつの泣き声。

七年前──

俺は、凛の母親が亡くなった夜の時間に、一人で勉強をしていた。

隣に住む凛とは、顔を合わせることは滅多になかったが、あいつの笑顔は好きだった。

凛と母親が夜の散歩をしに行くところを見届け、俺は本を読むのに戻る。

そして聞こえたあいつの叫び声──

俺の体はすぐに動いた。

あいつの居るところを探し当て、傍に駆け寄った時、凛の目の前には血だらけの母親が倒れていた。

何が起こったのか分らなかった。

少し離れたところには、何者かの血がところどころ飛び散っており、凛の隣には一匹の妖がいた。

「お前こいつの知り合いか?」

当然そいつに話しかけられ驚くが俺は頷いた。

「こいつの傍に居てやってくれないか?俺では、傍には居ることは難しい」

妖は、そう言い残すと何処かへと消えて行った。

今の状況を頭の中で整理し、俺は凛の肩に触れる。