「ここなら、よく見えるだろう」

「これはっ!」

私は目の前の光景を目にして息を飲んだ。

そこには、大量の鬼蜘蛛たちがいたからだ。

よく見れば、周りには蜘蛛の巣がはられている。

「どおりでたくさんの妖の気配を感じたわけだ。だがこの時期に鬼蜘蛛たちの大量発生は初めてだな」

「でも、なんで貴船なんかに?」

「鬼蜘蛛たちは、元々貴船の周りを縄張りにしている。だけど、ここまで縄張りを広げてどうするつもりだ?」

鬼蜘蛛たちの様子を伺っていた時、鬼蜘蛛の中に人の姿が見えた。

「人?」

「いや、あれは」

その人物は、鬼蜘蛛たちに向かって手を広げると声を張り上げた。

『我らが動く日は近い、憎き陰陽師たちを滅ぼすのだ』

その人物は、頭から角が生えていて瞳の色は紅色だった。

「これは、鬼蜘蛛たちの数が減るまでここで待つしかないな」

「そうだな」

私たちは、鬼蜘蛛たちのやり取りに目を戻す。

『だが心配するな!我々にはあのお方がついておられる、我らが総大将ぬらりひょん様だ!』

その時、私たちの体に鳥肌がたった。

「この気配は……」

「なにこれ……」

その鬼蜘蛛の背後に、一人の男が歩いてくる。

『これは、すごい数だな』

『ぬ、ぬらりひょん様!』

私たちは、初めて見るぬらりひょんの姿に意識を集中させる。

私は、空の握っている手に力を入れる。

それに気づいた空は握り返してくれる。

『な、なぜぬらりひょん様がここに?!』

『ちょっと様子を見に来たんだ』

ぬらりひょんは、男の前へと出ると腰にさしてある刀を引き抜く。