「私は、早く死にたいよ。もちろん、こんなことを言えるのは騰蛇だけだ」

「そうか?青龍とかには言えないのか?」

「私は、青龍の顔を見ずに死んだ。だから、青龍がどんなやつかは知らない」

青龍を十二天将の仲間に入れたのは、空だったからな。

「その青龍は、強いのか?」

「あぁ、強いね。俺と同じくらい」

「そうなのか?じゃぁ、その青龍も薫子のことが好きだったんじゃないのか?」

「な、何で分かんだよ!」

やっぱりか、となると騰蛇は青龍のことを酷くライバル視したんだろうな。

昔の私みたいに。

「騰蛇と話していたら、昔話をしたくなったな」

「俺たちが初めて会ったあの日か?」

「それもあるが、空のことを思い出した」

「あのクソガキか」

「まだ空のことをそう呼んでいるのか?」

そういえば、騰蛇は空のことをクソガキと呼んで嫌っていたな。

「今の安部家で、あいつそっくりな男がいて気に入らねぇんだよ」

「その男の名は、なんという!」

もしかしたら、一瞬だけ見えたあの男かもしれない。

「名は凛空だ、凛音の凛に空と書いて凛空だ」

そうか、凛空か……。

そこで、私の意識が遠くなってきた。

「すまない騰蛇、今日はここまでだ」

「ゆっくり休めよ」

私は、まだ囚われている。

その凛空という男が空に似ているなら、私を助け出してくれるだろうか?

空のもとへと連れていってくれるだろうか?

「空……」

最後に空の名前を呟き、私はまた眠りに入った。

「最後まで空のことを考えているのか」

騰蛇は、優しく髪を撫でる。

「今度こそ、空のもとに連れていってやる。それが、俺にできるお前への恩返しだ」