「………帰れよ。」
「え?」
驚いたように固まるあいつに俺はさらに追い討ちをかけた。
「帰れっつってんだろ!!」
大声で怒鳴ると、
彼女は肩を大きく震わせて、
目を大粒の涙で潤ませて。
何も言わず、その場から走り去ってしまった。
「はぁ………。」
俺はあいつが出ていった扉を見つめて深いため息をこぼす。
初めてだった。
あいつが他の奴らと同じ顔をしたのは。
今初めて、俺を心底怖そうにした。
最低だな、今のは。
なんも悪くねえのに。
あいつはもう、ここには来ないだろう。
諦めにも似た感情と共に湧き上がるのは、後悔。
あいつを傷つけたことに対する罪悪感。
こんな感情を抱くほど、俺はあいつを大切に思っていたのだろうか。
気付いてしまったもう手遅れな自分の感情に、ため息を零しながら、
俺は校門に向かって元気なく歩くあいつを屋上から見つめていた。
そして、それから数週間。
屋上の扉が開くことはなかった。



