「えーっと……こん、にちは?」


 あ、疑問形になってしまった。
 近くによってそう告げると、彼は「お前も?」とよくわからない疑問を投げかけてきた。

 お前も? とは?

 しばらく考えてから「ああ、うん」と返事をする。
 そういえば彼も美化委員だったっけ。

 不良と言われる彼も真面目に委員会には顔を出すらしい。来ると思ってなかったからびっくりした。
 でも、委員会に来てくれたんだと思うと、やっぱり彼のことを悪く思えない。
 私を待ってくれていたのも、委員会が一緒だからだよね。


「迷惑だよね、休みの日に」

「こんな日じゃねえと意味ねーんだろ」


 おお! 会話をしている!
 結構普通に話してくれるんだなあ。
 今まで一言以上の会話なんてしたことなかったのに。

 こんなふうに話しかけてたら、今までも話してくれていたのかな。


「大和くん、思ったより早く来たんだね。人のこと言えないけど」

「早いほうがいいかと思って」


 口調はどれもそっけない。けれど思っていたよりもずっと普通に話ができている。無表情なのも相変わらずだけれど、会話をするときは必ず私の目を見て喋ってくれる。

 やっぱりウワサなんてものはあてにならないんじゃないかと、思う。
 この人が、ちゃんと、相手の目を見て話してくれるこの人が、ひどい人だとは思えない。

 誰かをいじめるような人には見えない。

 ウワサなんてしょうもない。ちょっとしたことを誇張されて、人に伝わる度に膨れ上がってただのでたらめなものになる。

 こんなふうに大和くんと私が隣に並んで、会話をしているところを誰かが見たら、信じられない内容に発展するだろう。


 でも、人のいない休み期間中でよかった。なにを言われるかわかったもんじゃない。

 ……そんなことを思ってしまった自分に気づいて、自分に嫌悪感を抱いた。


 堂々としているこの人は、自分のウワサについてどう思っているんだろう。本人も自分が他の生徒にどう思われているか知っているはず。

 いじめをしていた。ケガをさせた。窓ガラスを割った。
 あのウワサはどこからどこまで本当なんだろ。

 ちらっと視線を彼に移す。

 汗ひとつないキレイな肌。毛穴なんかも全く見えないし。もちろん鼻毛だって見えない。髪の毛もさらっさらだ。少し目にかかるくらいに長いけれど、邪魔なほどではない。

 こんな人も寝起きはボサボサだったりするんだろうか。目が覚めた瞬間から整ってるんじゃないだろうか。



 ……やっぱり、綺麗だなあ。