「あのね、私、倒れた後のことよくわからないんだけど……。
誰かが私を抱き上げて、保健室まで運んでくれたのかなと思って……」
そう言うと、春町くんがニッコリ笑って言った。
「そうだよ。俺がお姫様抱っこして、保健室まで運んだんだよ」
「え…… 本当に……?」
「うん。俺って、王子様みたいでかっこよくない?」
ニコニコしている春町くんを、つい凝視してしまった。
彼の髪は明るい茶髪で、ヘアアイロンでゆるいウェーブが付いていて、ワックスも使ってセットしてある。
目はくりっとした二重で、カラーコンタクトを入れているのか少し茶色。
私のおぼろげな記憶では、真っ先に駆け寄ってくれた人の黒いサラサラの前髪と、切れ長の二重の黒い瞳が見えた気がするんだけど……。
春町くんの言葉と、自分の記憶の違いに混乱していた。
ベットに横になっている私と、椅子に座って見下ろす彼。
恥ずかしい状況なのを忘れて、彼の茶髪や目元をじっと見てしまったら、春町くんが急に真顔になった。
「菜乃花ちゃん、初めの頃よりずっと、可愛くなったよね……」
ベッドの枕元がきしんだ。
それは、春町くんが中腰になり、私の顔の横に両腕を突き立てたせい。
「えっ……⁉︎」


