「結城くん、ありがとう! 嬉しい!
早速今日から読んでみるね!」
2冊の文庫本を受け取って彼に笑顔を向けると、表情に乏しい結城くんが少しだけ微笑んでくれた。
「本が好きなところは、昔から変わっていないんだな……良かった」
あ……また……。
この前も中庭で、まるで過去の私を知っているような言い方をしていた。
その言葉と控え目な笑顔に、胸がドキンと大きな音を立て、
同時に古い写真のようなセピア色した図書館の風景が、頭の中に浮かんできた。
本棚の上の方にある童話の本に向け、背伸びをして腕を伸ばしているのは、小さな私。
届きそうで届かなくて困っていたら、誰かの腕が後ろから伸びてきて……。
「宗多さん、どうしたの?」
結城くんに声を掛けられて、ハッと我に帰った。
思い出しそうだった図書館はまた記憶の底に沈んでしまい、もうそれ以上、何も浮かんでこなかった。
自分ではわからないので、恐る恐る彼に尋ねてみる。
「あの、私、過去に結城くんに会ったことがあるのかな……?」
私の言葉に、彼の瞳に寂しげな色が広がった。
「チャイム鳴ったから、戻りな。
授業に遅れるよ」
彼はそれだけ言って、私に背を向け教室に入ってしまった。
どうして答えてくれなかったんだろう……。
自分で思い出せってこと?
そうだとしたら、やっぱり私達は過去に出会っていたということになるよね……。
結城正臣くん。
その名前に覚えはないのだけど……。
考えれば考えるほど、わからなくなってしまう。
もやもやした気持ちを抱えたままで、私は特進クラスの前を離れて自分の教室へと急いでいた。
貸してもらった2冊の文庫本を、胸に大切に抱えながらーーーー。


