お母さんが早起きして作ってくれたお弁当なのに、美味しくないと言われて悲しくなった。
しゅんと肩を落として落ち込んでいると、美緒ちゃんが由希奈ちゃんを注意した。
「由希奈ー、ハッキリ言い過ぎだって。
菜乃花、へこんでんじゃん。
そういうのは、思ってても言ったらダメでしょ」
その時真後ろから、袖を二段折り返したワイシャツの腕が伸びてきた。
それは春町くんの腕。
彼は私の後ろの机に座って、男子3人で談笑しながらお昼を食べていた。
春町くんの腕が残り一切れの玉子焼きを摘み上げ、パクリと彼の口の中へ。
『美味しくない』と言う由希奈ちゃんの感想はきっと聞こえていたはずで、
それなのにどうして食べているのかわからなくて、ただただ驚いていた。
私の後ろに立つ春町くんを、体を半分捻って見上げていると、玉子焼きを飲み込んでから、彼はニッコリ笑って言った。
「ウマイじゃん。俺、この味好き」
「え〜。あたしは甘い玉子焼きの方が美味しいと思うよ?」
「由希奈は甘党だからね。
俺は甘い玉子焼きは嫌だな」
「楽人の舌、変〜」
「ま、人それぞれ好みがあるってことでしょ」


