貸してもらった文庫本が、手から離れてベンチの上にバサリと落ちた。
両手で茶髪を隠すように、頭を覆う。
結城くんは淡々とした口調で、さらに追い打ちをかけてくる。
「左頬が腫れてるよ。親に叱られたの?」
「あっ……」
彼の腕が伸びて来て、まだ微かに痛む頬にそっと触れた。
びっくりして逸らしていた視線を再び彼に戻すと、切れ長の二重の瞳が私をジッと責めていた。
「宗多さんは無理している。君は校則違反にあたるオシャレを楽しむタイプじゃないはずだ。
やりたくもないことをしてまで、あの人達に合わせる意味が俺にはわからない。
あいつらに、振り回されるなよ」
きっと結城くんは私を心配して言ってくれたのだろう。
それはわかっていても、昨夜両親の言葉にカッとした時みたいに、怒りの感情が湧いてきた。
私の左頬に触れる温かい手を振り払い、彼を睨んだ。
「春町くん達を悪く言わないで!
新しいクラスで一人ぼっちにならないようにって、仲間に入れてくれたんだよ?
優しい春町くんの悪口なんて、聞きたくないよ!」
悔しかった。
友達を悪く言われた気がして。
結城くんは私が怒っても、少しも慌てず動揺もみられない。
強い瞳で私を見据えたまま、落ち着いた声で言葉を続けた。


