その言葉で、呼び出されてここにいるのだという事実を思い出した。
本についての会話が楽しすぎて、そのことが頭から抜け落ちていた。
お願いって何かな……?
本を貸してもらったし、私にできることなら何でもしたいと思うけど……。
お願いを聞く気でコクリと頷いた私に要求されたのは、意外なことだった。
「髪の色、黒く染め直して」
「え……? どうして?」
とっさに片手で自分の髪に触れた。
両親と先生には叱られたけど、クラスメイトは『いい』と言ってくれた。
美緒ちゃんと由希奈ちゃんは、オシャレになったと喜んでくれて、
春町くんは、可愛いって……。
動揺して、目が泳いでしまった。
結城くんだけは私から視線をそらさずに、真っ直ぐに見据えて諭すように言葉を続ける。
「宗多さんらしくないよ。
あの人達に言われて、嫌々やったんでしょ?メイクも。断るべきなのに」
「ち、違っ……」
違うとはっきり言えないのは、自分でも困っているのを自覚しているから。
茶髪にしたことで春町くんに褒められたし、これで良かったんだよね……。
今日、何度となくそうやって自分に言い聞かせてみたけど、
怒っていたお父さんの顔と泣いていたお母さんの顔が頭から消えなくて、やっぱり胸が痛い。


