春町くんが私の手の中のカラーリング剤に気づいて、取り上げた。
まだ固まっている私に、「茶髪にすんの? いいじゃん、似合いそー!」と言ってくる。
それを私が否定する前に、由希奈ちゃんが説明してくれた。
「菜乃花、お小遣いピンチなんだって。
染めたらぜーったい可愛いくなるのに、無理なんだー」
「いくら?」
「1520円」
「安いじゃん。いいよ、俺が買ってあげる。
女の子が可愛くなるのに、金は惜しまないから」
え……えええっ⁉︎
そんなの困るよ!
お金が足りないっていうのは嘘じゃないけど半分口実で、カラーリング自体をしたくないのに!
それに、同じ歳の高校生に買ってもらうなんて、そんなのダメだよね?
1520円もするよ?
文庫本が2冊も買えちゃう値段だよ?
道徳的に間違っているよね? ね?
人の意見に反対することは、私のとても苦手な分野。
でも、今ばかりは慌てて言った。
「だ、だめだよ、そんなの! 買ってもらうなんて悪いし、私は黒い髪の毛でもいいと思って……」
必死に気持ちを伝えようとしたのだけど、言い方がまずかったのか、みんなには伝わらなかった。


