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夏がもうすぐ終わる頃。
菜乃花と出会ってから約三週間。
毎日のように図書館で一緒に過ごし、同じ本を読み、たくさん話をした。
楽しかった。
楽しいという感情は、こういう気持ちのことを指すのだと、生まれて初めて実感していた。
仮住まいのウィークリーマンションと図書館は目と鼻の距離なので、母親も長時間の外出を許してくれる。
『必ず帰ってきてね。さーやがいないと、お母さんは死んじゃうよ』
そんな言葉を付けられはするけれど……。
朝8時。
いつものように私の身支度を嬉々として整える母親が、私の長い黒髪を撫で、口元だけに笑みを浮かべて言った。
「さーや、3日後に引っ越すからね。
次の所は近くに図書館はないけど、大きな本屋さんがあったわ。
本が大好きなさーやに、たくさん本を買ってあげるからね」
3日後に引越し……。
引越し自体は予想していたことだけど、心の中に嫌だという素直な感情が浮かんできた。
菜乃花の可愛らしい笑顔を思い出し、別れたくないと強く思ってしまう。


