家を出た時は一時的に泣き止んでいたけれど、またすぐに荒れそうな予感がする。
今日はもう帰ったほうがいいかな。
私が側にいれば、母親は少しは落ち着いてくれるから。
読み切れなかった本は借りて行くことにして、菜乃花に声をかけた。
「菜乃花、私、もう帰るから」
菜乃花は何も答えない。
無視しているのではなく、声をかけられていることに気づいていないみたいだ。
すごい集中力だな……。
それに感心して、声を掛けるのを諦めた。
母親が私に買い与えたポシェットから、メモ帳とボールペンを取り出した。
一枚破って、短いメッセージを書いた。
【菜乃花、またね】
書いたメモ紙をどうしようか考えていたら、菜乃花の椅子の背もたれに引っ掛けてある麦わら帽子が目に止まった。
それを手に取り、座っていた椅子の上に置いて、帽子の中にメモを入れておいた。
菜乃花、またね……。
また会いたいと思った。
明日も必ずこの小さな図書館に来てみよう。
小学校は今、夏休み期間。
きっと、いや絶対に、菜乃花は明日もここに来ると思うから。
読みかけの本を貸し出しカウンターで借りて図書館を出た。
こんな私にも、友達ができた。
それを嬉しいと感じている、自分の心に驚いていたーーーー。


