菜乃花に名前を尋ねられたので、答えようとした。
「私は、ゆうき……」
でも、名字まで言ったところで言葉に詰まってしまう。
結城 真臣 と言うべきか。
結城 紗矢香 と言うべきか。
迷っているうちに、菜乃花が勘違いしてしまった。
「ゆきちゃんて、言うんだ!
すごーい、この本のタイトルと同じ名前だね!」
『ゆき』ではないけれど、否定しなかった。
ゆきちゃん。それでもいいや。
なんて名乗っていいのかわからないし、どうせ菜乃花とも、すぐにお別れになるから。
1年で3度の引越しをした。
4度目の引越しも、きっと近い内にあるだろう。
それからふたりで並んで椅子に座り、それぞれに読みたい本を読んだ。
生まれて初めて、隣を気にしながら本を読んだかもしれない。
「は〜」「ええっ?」「すごい……」
菜乃花は読みながら、小さな声を漏らしていた。


