まさか仕事中のお父さんが、怪我でもしてしまったの……?
お母さんの様子から頭に浮かんだ不安は、半分あたりで、半分ハズレだった。
床に突っ伏して大泣きしているお母さんの背中にそっと右手を置くと、ガバッと上体を起こしたお母さんにきつく抱きしめられた。
「大丈夫、大丈夫よ……。
菜乃花のことはお母さんが守るから……泣かなくていいのよ……」
泣いているのは、私じゃなくてお母さん。
抱きしめられて感じるのは、安心じゃなくて不安だけ。
「お母さん、何があったの……?
お父さんが怪我をしたの? 病院にいるの?
ねぇ……ねぇ……お母さんってばっ‼︎」
何が起きたのか知りたいのに、お母さんは『大丈夫よ』と涙声で言うばかりで、何も教えてくれない。
どうして教えてくれないの?
まさか、お父さんは、もう……。
それから3時間後、今は病院からの帰り道で、タクシーの中。
お母さんは今は泣いていないけど、肩を落として流れる車窓の風景をぼんやりと見つめたまま、何もしゃべらない。
さっき病院でお父さんに会ってきて、何があったのかを私はようやく知ることができた。


