約束の時間には少し早いけど、ソワソワして落ち着かないので家を出ようと思った。
玄関で靴を履く私に、お母さんがリビングから見送りに出てきてくれた。
「菜乃花、お金持った?
お昼食べてくるんでしょ? 足りるかい?」
「うん、お小遣いで十分に足りるよ」
「ハンカチとティッシュは?
暑いから、帽子も被っていきなさいね」
「わかってるよ……」
いつも通り心配性で、ちょっとお節介なお母さんに色々と言われていたら、リビングから電話のベル音が聞こえてきた。
急いでリビングに戻って行くお母さんの背中に、「行ってきます」と声をかける。
でも、ドアノブを押し開け、マンションの廊下に片足を踏み出したところで、足がピタリと止まってしまった。
電話の応対をしているお母さんの声が、なんか変……。
「はい、宗多で……え……?
はいーーはいーーえっ……⁉︎」
明らかに何かに驚いているお母さんの声は、それから慌てているような戸惑っているような話し方に変わる。
「それで、主人はーー。
あの、あの、どうしましょう……。私は何をしたら……」
ただならぬ雰囲気に、私は開けたばかりのドアを閉めて、玄関の内側に戻った。
急いで靴を脱ぎ捨てリビングに駆け込むと、お母さんが通話の切れた受話器を手から滑り落としたところで、
その直後に床に崩れ落ち、声を震わせて泣き出した。


