お母さんに教えてもらった“ ゆきちゃん” という名前を、心の中で何度も繰り返し呟いた。
ゆきちゃん……。
そうだ、あの子はゆきちゃんという名前だった。
友達になったきっかけは、私の手の届かない高い所の本を取ってくれたことじゃなかったかな?
その本のタイトルにゆきちゃんという名前が入っていて、『同じ名前だね』って、言った気がする……。
名前を手に入れたことで、ゆきちゃんとの出会いのエピソードも思い出すことができた。
でも、それだけ。
あとはわからないし、考えても意味はないと思い直す。
私が思い出したいのは、結城くんと私の過去について。
女の子のゆきちゃんは、結城くんのはずがないから。
考えながら朝ご飯を食べていたため、なかなか箸が進まない。
そんな私を、お父さんがたしなめた。
「菜乃花、早く食べなさい。
お母さんが片付けられないだろ?」
「あ、ごめんなさい」
慌ててお茶碗のご飯をかき込む私の隣で、食事を終えたお父さんが立ち上がる。
「今日は友達と出かけるんだってな。
気をつけて行けよ」
大きな手の平が私の頭をポンポンと優しく叩いて、リビングから出て行った。


