でも、言葉にしなくても、結城くんには私の気持ちが伝わったみたい。


彼は頷いてくれて、それからふんわりと柔らかい、優しい笑顔を見せてくれた。



結城くんが、笑った……。



いつも表情に乏しくて気持ちを読みにくい彼が、今はっきりとわかるくらいの笑顔を見せてくれている。


その笑顔にドキドキして、顔が熱くなった。

同時に、彼を笑顔にさせているのは自分なんだと気づいて、嬉しくなって一緒に笑った。



あれ?

こんな気持ち、ずっとずっと前にも味わった気がする……。



ふと、記憶の底から、何かが浮かび上がってきた。


笑顔の結城くんに重なるように見えたのは、可愛らしい小さな女の子の顔。


綺麗な黒髪のサイドを編み込みにして、仕立ての良い水色のワンピースを着ていた。



私、この子のこと、知ってるよ。

えっと……あれ? 誰だっけ?


きっと小学一年生か幼稚園の年長さんか、そのくらい前のことだと思う。

幼すぎて、良く思い出せないけど、確か……。


季節は夏。

ほんの短い間だけ、友達になった気がする。


名前は思い出せない。


この子が結城くん……?

いや、違うよ。

それは絶対にない。

だって、女の子だもん。



突然に記憶の中から浮上した一夏だけの友達に、結城くんのはずがないと結論付けた後は、その子の姿は記憶の海に溶けて見えなくなる。



目の前にいる結城くんが、私に言った。



「今度、宗多さんと一緒に行きたい場所があるんだ。

ちょっと遠い場所だから、夏休みに行こうと思う。

そこで話すよ。俺の大切な思い出をーーーー」