半年前まで私の恋人だった彼、蒼介(そうすけ)さんは、同じ会社の上司で、四歳年上の三十歳。課長だった。私は地方の小さな支店での勤務に満足していた。仕事にも何事にもまっすぐ向き合う年上の彼と、肌に馴染んだ生まれ故郷での暮らしが、永遠に続くものだと思っていた。けれど、蒼介さんに本社勤務の話が持ち上がり、仕事熱心な彼はそのスキルアップの機会を逃すはずなどなかった。

「このまま美晴(みはる)とここにいる生活では、満たされないんだ」

 そう言って、蒼介さんは半年前に東京へ行ってしまった。「将来のことは約束できないから、僕のことは忘れてくれ」と言い残して……。

 その言葉通り、彼のことを忘れられたらどんなに楽だっただろう。新しい恋をして新しい恋人とこの林檎飴を食べることができていたなら……。

 目に熱いものが込み上げてきて、私は左手の甲で涙を拭った。立ち上がって、ゴミ箱を探す。

 もったいないけど、林檎飴は捨ててしまおう。蒼介さんへの想いと一緒に。

 草履の足を重たく引きずりながら、白いメッシュのゴミ箱に向かった。その透明のビニール袋の中には、ジュースの紙コップや綿飴の棒、たこ焼きの舟皿などが無造作に突っ込まれている。