コーヒーを飲み、タバコに火をつけてぼんやりと考える。

(もう終わった事だし…。だいたい、何年前の事よ…。)

ハッキリとした別れの言葉もないままに、最悪な終わり方をした、遠い日の恋。

知らないうちに“浮気相手”にされていたみじめな自分。

何も言わず他の人と去って行った浩樹を責める事も、誰かにつらい胸のうちを聞いてもらう事もできないで、毎晩一人で泣いた。

(もう忘れよう…。これからまた顔を合わせる機会が増えるのに、いちいち気にしてうろたえてたらダメだ…。)

経理部のあるフロアには、志信のいる販売事業部もある。

(あまりあのフロアには、近付かないようにしよう。もうこれ以上、誰にも自分のペースを乱されないように…。)

薫は短くなったタバコを灰皿に捨て、コーヒーを飲み干して、カップを握りつぶした。

(あんな思いはもうしたくない…。)

苦い思い出を投げ捨てるように、薫はつぶしたカップをゴミ箱に投げ入れて、オフィスへと戻った。