私は草履の先で砂の地面に小さく円を描いた。

「俺の何が気に入らないのか、ちゃんと教えてほしい」
「え?」

 大樹の言葉に私は顔を上げた。提灯の明かりの中、わずかに眉を寄せた大樹の顔が見える。

「俺、結月が気に入らないようなこと、何かした?」
「な、何もしてない」
「じゃあ、なんで怒ってるんだよ」

 大樹が少し上体を屈めて、私を正面から見る。

「何もしてくれないから……怒ってるの」

 意味がわからない、というように大樹がさらに眉を寄せる。

「だって……せっかく大樹と釣り合って見えるように大人っぽい浴衣を着てきたのに……大樹に〝かわいい〟とか言ってほしいのに……ちっともほめてくれないから……」

 私は自分の指先をいじいじと絡ませた。こんなふうに文句を言っちゃう時点で、やっぱり私の中身はまだまだ子どもなんだなって実感してしまう。

「かわいいって言ってほしかったの?」

 大樹に訊かれて、正直に頷いた。私の気持ちを汲み取って、嘘でもいいから「かわいい」って言ってくれると思ったのに、帰ってきたのは予想外の言葉。

「かわいいなんて、言えない」
「え?」