なんでだ、と一真は言う。

「なんでだって、なんでですか」

「海外挙式にしたいんだろうが」

「いやー、でも、先輩の結婚式場も好きなんですよ。

 いいでしょう? そこ。

 先輩もそう思って働いてるんじゃないですか?」
と言うと、一真は、ぐっと詰まった。

「てめー、この客が他所に逃げたら、呪うぞ」
と言って、電話は切れる。

 客を呪うなよ、と思いながらも、確かに、その日までに誰かと話がまとまらなかったら、式場に迷惑をかけるな、とは思っていた。

 渋い顔で、シンクにすがってスマホを見つめていると、通りかかった麻美が一旦、通り過ぎて、バックしてくる。

「なにしてんの?」

「先輩、もし、私が九月十三日に結婚しなかったら、あの結婚式場、どうですか?」

 麻美は笑い、
「なに、もう挫折?」
と言ってくる。

「いや、そうじゃないんですけど。

 万が一、そういうことがあったら、式場に迷惑かけるなーと思って」
と言うと、

「だったら、誰とでもいいから、結婚しちゃえば?」
と言う。

「は?」