「此処で話せるような悩み事はありません」

「フラれたのか、不倫か。
 なにかのヤケか」

 どれが正解であっても、今、此処で言うと思うのか。

 ほんっとうに困った人だな、もう〜と思いながら聞いていた。

 高校のときから、男前でモテてはいたのだが、いまいち、デリカシーにかけるというか、大雑把というか。

 このルックスでなかったら、恐らく、彼の言動は許されてはいない。

「相手が居ないまま、式場の予約に来る人、他に居ないんですか?」
と仲間を求めて問うてみると、

「いや、まあ、たまにあるけどな」
と一真は言う。

 そのまま、煙草でも吸い出しそうな気安い口調と態度だった。

 あの、一応、客なんですが、と思いながらも、
「えっ、あるんですか?」
と訊く。

「あるぞ。
 どうしても、その日に思い入れがあって、まず、式場を抑えてから、相手を探すとか。

 もうこの日までに結婚すると決めないと、どうにも馬力が出ないとか」

「女性ですか?」

「いや、両方。
 親もある。

 でも、どうした。

 お前と受付のやりとりを見てた副支配人が、若くて美人なのに、なに焦ってるんだろうって言ってたが」
と言ったあとで、

「若くて美人、のところは、副支配人の台詞で、俺の台詞じゃないからな」
と念を押す。