乙日根(おつひね)からの大和の話があって早2週間、佐由良は数名の従者を従えて、大和に向かう事になった。

黒日売だけが心底悲しみながら見送り、他の者逹数名は建前上の見送りとなった。

だかその場に乙日根は居なかった。
佐由良もやっぱりこんなものかと思いはしたものの、海部を離れる事にやはり寂しさを感じた。

「佐由良、元気でね。向こうでしっかりと務めを果たすのよ」

「はい、叔母様。大王や皇族の元で精一杯務めに励みます」

そう言って2人はお互いの手を取り合い、最後の別れを惜しんだ。

そして「では」と言って佐由良逹一行は歩き出した。

予定では海から船に乗って大和に向かう手筈になっている。
そして佐由良逹が船まで向かっていると、馬に乗った者が佐由良逹に近づいて来た。

「あ、あれは」

その者は佐由良逹の前まで来ると、馬を止めた。

阿止里(あとり)どうしたの?」

佐由良は思いもよらない者の登場に驚いた。
阿止里とは乙日根の孫の1人で、佐由良にとっては従弟にあたる。

そして阿止里は乙日根の亡き後の後継者にとも考えられている。

「阿止里、あなたお祖父様の側にいなくて大丈夫なの」

「いや、大分叱られるだろうな。でもお前が大和に行くって知って。いてもたってもいられなくて、本当に大和に行くのか」

彼は何故か昔から黒日売と一緒で佐由良に対しては優しく接してくれていた。

だが周りはその事を余り良くは思ってはいなかった。
なので佐由良も彼が族内で嫌な目に合わないように、余り親しく声を掛けないよう心掛けていた。

そんな彼がまさか乙日根の側を離れて駆けつけてくれるとは思っても見なかった。

「えぇ、行くわ」

佐由良はあっさりと答えた。

彼女自身がこの2週間で覚悟を決めた事もあるが、何より従者のもの逹の目もあるため、安易に弱気にはなれなかった。

「そ、そうか」

阿止里は他に何か言いたそうだったが、佐由良の決心が決まっている事が分かったので、ぐっと口を堪えた。

(もっと違う立場でお前と出会えていたら……そしたら俺は)

阿止里は心の中でそう思った。

「阿止里、お祖父様をくれぐれも宜しくね」

佐由良は優しく彼に行った。

(彼がいてくれるからなら、吉備も海部きっと大丈夫ね。)

そして佐由良と他の従者はまた歩き出した。

「佐由良、本当に元気で!」
 
阿止里は佐由良逹に声を出して言った。

「有り難う!」

と佐由良は言いながら軽く手を振った。


そして佐由良逹一行はそのまま船の置いてある所まで行き、そこから船に乗って、瀬戸内海を通って大和へと向かった。