「出来るだけ食い止めねばならん。わしもそちらに回ろう」

 二つ年上の熊之介(くまのすけ)が、平八郎の横に立った。

「行け!」

 古津賀に言われ、残りの者は目指す国境に向けて駆け去った。

「無事に落ち延びられれば、お主と姫様の仲も成就するかもじゃったのにのぅ」

 熊之介が、ぽん、と平八郎の肩を叩いた。

「普通に考えて、無理じゃろ」

 ちらりと小さくなる駕籠を見つめ、平八郎が呟く。

 平八郎の家は、たかだか五十石取りの馬廻り役だ。
 主家の姫君となど、到底釣り合わない。

 だが平八郎の腕を買われ、姫の護衛に着くようになってから、はっきりとは言わないまでも、お互い心を通わすようになってしまった。

「主家がなくなれば、そんな身分は何の意味もない」

「だが姫君は姫君じゃ。そう簡単に身分の差は埋められん。だからこそ、わしは出来ることで、姫様に尽くすんじゃ」

 平八郎はそう言って、腰の刀に手をやった。
 追手が立ち塞がる平八郎ら三人に気付き、殺気を放ちながら近づいてくる。