出入り口の床に座り込んでしまっている明日奈を抱えようとしている男に崇は見覚えがあった。


「あなたは・・・明日奈のお世話になっている家の・・・。」


「は、はい。夏川幸樹です。
仕事が終わって、たまにはここでコーヒーをごちそうになろうかと思ってきてみたら、彼女が無理やり引っ張っていかれそうだったので、ちょっとやってしまいました・・・。

でも、大事にはならないと思います。
うちの弟は敏腕弁護士なんで・・・その。
明日奈さんは、これからとても店には出られないみたいだから、連れて帰って休んでもらおうと思うんですけど・・・いいですよね。」


「はい、お手数おかけします。
それと遅くなりましたがありがとうございました。
僕がちょっと配達にいってる間にこんな・・・あなたがきてくださってほんとに助かりました。
明日奈のこと、よろしくお願いします。」


「あ・・・は、はい。
それでは、おやすみなさい。」


男に引っ張られて震えている明日奈を、車に乗せて幸樹は帰宅した。


「着いたよ。
しばらく、ベッドで休むといい。
俺は風呂をわかしてくるよ。

あ、君のお兄さんが持たせてくれたサンドイッチとケーキを食べるか?」



「どうして店に来たの?」


「仕事が終わったからコーヒー飲みにいったらだめなのか?」


「だって、私がこの店をきりもりしてたときは1回も来なかったのに。」


「俺だって暇じゃないときは、仕事をしている。」


「じゃ、すごくタイミングがよかったってことなのね。
ごめんなさい・・・助けてくれたのに私・・・。」



「結果よければ・・・だろ。
助かったんだ、ふろわかしてくるから、寝てろ。」


「私、サンドイッチの配膳するから・・・もう大丈夫よ。
ありがと。先生。」


「そっか。じゃ、コーヒーもつけてくれよ、俺は店で飲みそこなってしまったんだからな。」


「うふふ、はい。」


いつものように、着替えをして自分が食べる前に幸太郎の食事の用意をしてから幸樹は食卓前にやってきた。


「あれ?ちょっとお待たせしすぎたか・・・。悪い・・・。」


食卓で寝入っている明日奈をベッドに運んで、幸樹は食卓にもどって明日奈が用意してくれたコーヒーを飲んでいた。


(偶然なんかじゃないんだ。バイト店員は弟の後輩たちで、明日奈をイヤラシイ目で見る客が何人かいるってきいてたし、今日だって・・・連絡がきたから。
崇さんがいないのに、口説いてるヤツがいるときいて・・・研究に没頭できなくて。
けど・・・俺が行ってよかったな。)