明日奈に呼ばれて、病室に入った幸樹が明日奈の父に促されるまま、すぐベッドの横に腰を下ろすと。


「幸樹くん久しぶりだね。」


「ええ。こんな形で会うことになるとは・・・びっくりしています。」


「そうだね。そしてまた偶然が続いて・・・今度は娘が世話になる。」


「気にしないでください。
俺はまだちっちゃかったから母の話くらいしか覚えていませんし。」


「いや、以前、私の妻が獣のようなヤツらに追われたときも、君の家でお父さんとお母さんに助けられた。
私の妻もとても美しい女性で、私にはもったいないひとだった。
それでも、結婚式が待ち遠しくて、浮かれた気分だった。

そんなとき、彼女が君の家から電話をくれて・・・複数の男たちに追われて怖かったときいて、凍り付いたよ。
けどね、君のお母さんの遊び心いっぱいの工夫のおかげで、妻は予定通り結婚式をあげることができて、あのときは本当に感謝しきれない気持ちだった。

明日奈にはこの話はしていないんだが、今度は娘も守ってくれないかね。」


「もちろんそのつもりです。
母の仕掛けも古いですから、どこまで通用するかはわかりませんが、警備面はできる限り強化しています。
それでも、きびしければ、俺と仲間で何とかしますから。
あ、この仲間っていうのは、人間じゃない仲間ですがね。あははは。」


「幸樹くんは明日奈を好きなんだね。」


「あ・・・・はぁ。けど・・・明日奈さんから見れば俺はオジサンですし・・・。
このとおりのいかつい男で、芳樹や和樹みたいに洗練されてませんから。
明日奈さんの思う人と幸せになってくれればいいと思って。」


「じゃ、明日奈が君を選べば幸せにしてくれるんだね。」


「あ、あの・・・俺は、だめですよ。
兄貴みたいに思われてるだけですから。」


「そうかな。まぁ急がなくてもいいが、明日奈を君の家で守ってやってくれ。
お願いします。」


「そ、そんなに俺を信頼するようなことを言っては・・・いけませんよ。」


「信頼を損ねるようなことをするつもりなのかな?
君は小さな頃と同じ瞳をしている。
明日奈が泣くようなことはするかもしれないけれど、決して信頼を損ねるようなことはしないと私は感じるのだがね。」


「あ、ありがとうございます。
お嬢さんは俺の全力で守ります。これで納得いただけますか?」


「ああ、今度は病院でないところでじっくりと君と話がしたいよ。」


「ええ、ぜひ。」


その後、病院は完全介護ということで、集まった者たちはそれぞれに帰っていった。


「ねぇ、和樹さん、幸樹さんと明日奈とってもいい雰囲気だったね。
ショックで弱ってる明日奈を、ずっと支えてたわ。
幸樹さんってとても優しい人なんだなぁって・・・ちょっぴり明日奈がうらやましくなっちゃった。」


「さぁ、それはどうだろうねぇ。優しいことは認めるけど、女性はねぇ。
しかも、とびきりの美女だと・・・まぁお手並み拝見だな。」


そんな話を和樹と優奈の間でかわされていたとは、思いもしない明日奈と幸樹だった。