結局、優奈と和樹の説得もむなしく、明日奈の決心は固かったようで、明日奈は幸樹の邸を出ていく準備をした。


2人から話をきいた幸樹は、明日奈の前にやってきたときには、明日奈が邸を出ることに反対はしていなかった。


「なぁ、1つだけ聞いてもいいかな。
ここが気持ち悪くて嫌になったわけじゃない?」


「もちろん、幸太郎はとってもかわいいもの。」


「そっか。それを聞けたら俺は何も言えないな。
君には君の世界があって、俺は先生をしてる立場上、向上心のある人は送り出してあげなきゃって思う。」


「先生・・・。」


「君は兄貴の店を手伝うだけの女性じゃ、もったいない。
少なくとも今はね。
なんていうか、いっしょに料理をした俺はそう思った。
ただ・・・もしも、ストーカーだの痴漢だので困ったら、もどってきてくれ。

ほら、俺はこういう男だから、生き物には優しいだろ。
それに、和樹にきいたんだろ?俺の過去。」


「ええ。」


「バカで情けないヤツだと思った?」


「いいえ。先生の優しさに付け込んだ悪い女の人に弄ばれちゃったんだなって。」


「ああ、俺は優しいだけで・・・ただそれしかなかった男だったよ。
けど、君をストーカーから守ることができると思うと、優しいだけの男から抜け出せそうに思った。
正直、ここから出すのは心配だよ。」


「ありがとう。
和樹さんと優奈にすすめられて、ここに置いていただけてほんとに助かりました。
でも、私もここでわかったことがあって、私はブラコンなんだなって・・・。

兄がお見合いして相手の方も気に入っているなんて思いもしなくて、相手の方に嫉妬すらもしてて・・・そんな自分を先生に見られるのが嫌で。

あのね、私もっと大人になって帰ってきていいですか?」


「ああ。君がそういってくれるなら大歓迎さ。
俺は幸太郎といつもと変わらずやってるから、帰りたいときに帰ってくるといい。」


「はい。じゃ、明日は父の新しい仕事の打ち合わせに出張するので、明日の朝・・・ここを出ますね。
たぶん、先生には会えないと思うし・・・。ごめんなさい。
お世話になりま・・し・・ぇ!」


明日奈がそう言い終わらないうちに、幸樹は明日奈を強く抱きしめると唇にキスしてきた。

明日奈は和樹の言っていたことを思い出していた。


「兄貴は鉄壁な鎧を身に着けてはいない・・・」


(鎧を脱ぎ捨ててくれたの?)


「1年後には顔を見せに来てくれないか?
俺もがんばるから。」


「先生・・・。それは。」


「君といっしょに料理したり、幸太郎の世話したり、生き物たちにエサをやったり、すごく楽しかった。
命を大切にしてくれる女性がいいと思った。
俺は君のお兄さんより年上だし、何度崇さんを羨んだかわからない。
だから、君がブラコンを卒業するなら、俺も過去を捨てられなきゃいけない。
1年後・・・いいか?」


「はい。1年後・・・約束します。」


「うん、お互い、がんばって。」


そういって、翌朝はお互い顔をあわせることもなく、明日奈は父の待つ別荘へと帰っていった。