恋が都合よく落ちてるわけない

「ありがとう。黙っててくれて」最後の出社の日、奥田さんが私に会いに来た。

ナイフで脅されてるから、刑事事件にすることもできたけど、奥田さんは会社を辞めて、実家に戻ると言うので、公にしないことにした。

「いえ」

「でも、あなたが床なんかひっくり返したりしなければ、ボロなんか出さなかったのに」

「ボロなんか出さなかったら、もっと大きな事件になって、その時は取り返しがつかなくなってるのよ」

「面白いわね、この私に説教するだなんて」と、奥田さんは、あははと大声で笑う。

「何でお金なんて欲しいと思ったの?」

「欲しかったんじゃないの。
気にいらなかったのよ。
何でも持ってて恵まれてる人が」

多分、専務のこと言ってるのだろう。

「それで?少しは気がはれた?」

「ええ」
私は、皮肉のつもりで言ったのに、奥田さんは、ふてぶてしく笑った。

もう、彼女に会うことはないでろう。