私は、慌てて、専務を止めた。
「戻るって!いえ、困ります」
「千鶴ちゃん、
仁志のこと好きなんだよね?」
「あの…」
「これであいつ、千鶴ちゃんのことあきらめたら、一生誰ともやって行けないよ」
私があきらめる前に、仁志さんにその気がないのだ。
「そんなことないです。須田さんなら、すぐに相手なんか見つかります」
「そんなやつが、何年も取りつかれたように仕事ばっかりして、一人になると、ボンヤリしてるか。」
「あいつが興味を持ったのは、
千鶴ちゃんだけなんだ」
「いいですけど、
私じゃ何もできませんよ」
「よかった。じゃあ、早速」
専務は電話を取り出し、誰かにかけた。
「ああ、僕だよ。今、千鶴ちゃんと一緒。それが何って、何てこと言うの、おい、まて切るな」
私は、専務から電話を貸してもらった。
「あの…仁志さん、私です。専務に駅に送ってもらう途中ですから、心配しないで下さい。出て来るとき、挨拶ができなかったから、電話でもお話しできてよかった。私、もう大丈夫ですから、それじゃ、さようなら」
プチっと電話を切った時の、専務の顔が面白くて笑ってしまった。
「すみません。やっぱり無理でした。さあ、行きましょう」
「1度保養所に戻ろうよ。電話じゃあなくてさ、顔見て話そう」
「同じです。迷ってましたけど、やっと踏ん切りがつきました。私は、もう、次にいけます」


