恋が都合よく落ちてるわけない

トイレの鏡をのぞくと、想像以上の酷い有り様で、化粧ポーチも何も持たずにきたのを後悔した。

私は、軽く顔を水で洗い、落合君につけられた感覚を消そうと唇のまわりをぬぐった。

顔をふいていたら、ドアが開いて誰かが入ってきたのがわかった。

「大島さん、ずいぶん大がかりなことしてたけど、何か探してるの?」

「ええ?」
私には、それが誰なのか声でわかった。

「その袋、どうするつもり?」


「どうって…」


奥田さんがピッタリ後ろにくっつく。
「貸して、それ」


「そんなわけ…」

ええっ?

脇腹の辺りに何か棒のようなものが、
押し付けられている。

「何?」

「ナイフ。よく切れるわよ」


「こんなことして…」


「早く出しなさい!!」


思い切り突き飛ばせば、逃げられる。
兄たちより、力はないだろう。
でも、脇腹のナイフで
傷を負うかも知れない。

少し悩んだけど、自分が傷を負うより、紙袋を渡すことを選んだ。どうせ、意味をなくしたプレゼントだ。


でも、やっぱり渡したくない。
私の生涯で、こんなに本気なプレゼントをもらったことはなかった。

うそ… それって、マジ?
そうだっけ?

ジュエリーなんて呼べるのをもらったのは、初めてだった。
せいぜい、買ってもらったのって、露店で売ってるむき出しのアクセサリー…

やっぱり、あげない!!

それに、西川さんの性格上証拠の品を、ジュエリーの箱に入れて隠すようなことはしないだろうから。

証拠品なんて、入ってないのに。

私は、袋を彼女の前に差し出し、
ナイフが体から離れたところで、
足に蹴りを入れた。

小さい頃、のように、さっさと屈むことはできなかったけど、バランスを崩す事には成功した。

怯んだすきに、ジュエリーを顔めがけて
投げつける。


あああああ 何てことを!



袋は奥田さんの顔に命中し、
鈍い音がした。


ジュエリーショップの、
高級感溢れる紙袋は、
角が固くて当たったら、
さぞ痛かっただろう。

不幸な事に、振り回すはずだった、
紙袋は勢い余って
私の手から離れてしまった。