高校からの帰り道、駅で偶然彼に会った。家が近くて幼い頃から一緒に遊んでいたのだから、並んで帰ることに違和感はなかった。彼は元々私の兄の友人で、私より三歳年上だった。大学に入ってから二年と少し経つのに彼はあまり変わらなかった。お洒落を意識した髪形もせず、チノパンも履かず、いつもTシャツにジーパン。髪の毛には寝癖が付いている。客観的に見れば彼はちっとも格好良くない。

でも。でも、私の目には誰よりも、他の誰よりも格好良く映ったし魅力的だった。小学校のときから私の気持ちはずっと変わらない。十年間。ずっと。


ああ、手を、繋いで歩けたらなあ。

並んで帰路を歩きながらそんなことを思う。横目で彼を見ると、彼は眠たそうに目を細めていた。うーん。好きです。

言うのだろうか。言えるのだろうかこの想いをいつか。私にとってこの気持ちはもう当たり前過ぎて、今更なんて言ったらいいのかわからない。わからないよ。


「……学校、どう? 今年受験でしょ」

隣を歩く彼が落ち着いたトーンで聞く。向こうの空が夕焼けで茜色に染まっていた。


「うん、頑張ってるよ。志望校も決めた。受かれば来年から私も華の女子大生だよ」

紺色のスカートに付いた埃をぱっと掃う。


「そうか、ミキちゃんが女子大生になるのか。モテるだろうね」

「え、何言ってんの、そんなことないと思うよ……。現にモテたことなど一度もない……」

乙女に何言わすんじゃこの男。自分で言っておいて悲しくなってきた。


「今は女子校でしょ。大学行ったら多分相当モテるよ、そんな気がする」

大地が心配するだろうな、と小さな声で言う。兄のことだ。

私が心配してもらいたいのはあんただっつーの。