薫が出ていき、再び部屋は静寂に包まれた。
人の気配がしなくなると、皆がふうっと息をつく。
「甘いね、結」
穏やかだが、鋭さのある声で文月が結に言う。
「文月先輩…?」
「冷静な判断が出来なくなるほど、この家族に肩入れしたの?違うでしょ」
「そんなんじゃねーよ。ただ、その。娘が死ぬって言うのは……ばあさんでも辛いだろ」
「そんなこと関係ないよ」
「おい、文月先輩!」
冷たく聞こえる文月の声に理津が立ち上がりかけた。
「理津」
疾風が手で制する。
「俺達が一番に優先するべきなのは露李ちゃんだよ。申し訳ないけど、この家に露李ちゃんを傷つけない保証のある人間はいない」
「分かってる」
文月は厳しい表情を浮かべていたが、突然、柔らかく笑った。
「うん。結ならそうだと思った」
守られる側の露李には何も言えない。
戦える能力はあっても、咄嗟の事態に反応できないのが今の自分の現状だ。
「でも、分かってても迷っちゃうのが結だよね。お前が優しいのは知ってるよ…んで、理津と静!」
文月は表情を一変させて理津と静を見る。
「お前たちは分かってなかったでしょ」
「う…はい」
「いや、俺は…」
「言い訳は聞かないよ。良い?守りたいものがあるときは守ることを躊躇しちゃいけない。他のものを守ろうなんて考えていたら全て失うことになる。分かった?一方を捨ててでも、一方を掴むんだよ」
はい、と二人がしょげるのを見ていると疾風と目が合った。
そろそろと近寄っていくと、小さく笑ってくれる。
「お前は何も引け目に思わなくて良いからな」
「うん。ありがとう」
「大変だな、ここの家は」
「ま、今日は皆がいるし大丈夫でしょ」
と言うと、わしわしと頭を撫でられる。
「わっ、ちょっと!髪がぐしゃぐしゃになるでしょ!」
「直せば大丈夫だ」
この~っ、と言い返そうとしたところで割って入る者があった。
「あーっ、お前ら!なに良い感じになってんだよー!」
「何を言っているんですか」
結に呆れながらも疾風の視線の先には文月。
「ふ、文月先輩…」
「疾風…俺がお説教してる間に」
「あのー、先輩?顔が怖いですよー」
暢気な声で露李が口を挟むと、文月にむにっとほっぺたをつままれる。
「いたた、何するんですかー」
「悪い子だねえ、露李ちゃんは」
全く分からない先輩だなあ、とほっぺたをつままれながら思うのだった。


