それから何も話さず、どれくらいそこにいたのだろうか、冷たさで気が遠くなりかけたところで桜木が口を開いた。
「結構です。湯をどうぞ」
そう言い、桶に入った湯を渡してくる。
──これだけで温まるか!
心の中で突っ込むが、それどころではない。
冷えた身体が悲鳴を上げていた。
ざばりと湯をかぶると桜木が巫女装束を持ってきた。
ゆっくりすぎる速度で着せられ、とりあえず一息つく。
朱音に貰った髪飾りをつけたところで─首に冷たいものが当てられた。
小さく微笑み──翡翠の風が吹く。
カランと何かが転がる音がした。
「そんなものでは私は殺せないわよ、桜木。結先輩!」
ふわりと着地した結が桜木を取り押さえる。
露李は素早く飛び退き、さきほど音のした方向を見た。
鈍く光るナイフが白い岩の上に落ちていた。
「…力が開花したというのは、本当だったのですね」
「物騒だなー、この家は」
諦めた風に言う桜木に結が冷たい眼差しを向けた。
露李はナイフを拾い、桜木の目の高さにそれを掲げる。
結が呆れた顔をした。
「おい、露李。遊ぶのも大概にしろよー」
「すっごい寒かったんですよ、だって!この恨み許すまじです」
桜木の顔が青ざめた。
怯えたようにナイフを見つめている。
「あとで言うつもりだったけど、桜木がまたお世話してくれるみたいだから先に言っとくわね」
握ったナイフを、さきほど桜木につきつけられた首の上に軽く滑らせる。
ちりりと軽い痛みがしたが──銀色の光が舞い、すぐに消えた。
「え……?」
「何度やっても無駄よ。分かってくれる?」
にっこり笑う。
桜木は完璧に脱力し、ずるずると座り込んだのだった。


