「こちらにございます」
案内された場所は、露李の記憶とは異なっていた。
表情を変えずに桜木を見る。
「…ここは広間ではないはずだけれど」
「禊をしてから、とのことですので」
大木に囲まれた一軒家のような場所で、露李の記憶に間違いなければそこは清めのために使われる風呂場があったはずだ。
正式な場所なので入ったことはなかったが、そういうことかと納得する。
しかし、
「神事でも何でもないのに、禊をしろとお祖母様がおっしゃったの?」
そう言うと桜木は今にも舌打ちしかねない顔をする。
守護者たちの警戒が強まった。
だが、露李には分かっていた。
今はある一人の人物以外、誰にも自分に手出しはできないのだ。
「恐れながら、聞くところによりますと花霞は大きな邪気を発する禍々しい弓。それに関わった露李様とて、何もなしに入室を許すことは出来かねる、と」
「…よくもまあ、ぬけぬけと」
思わず発した言葉に、桜木は再び露李を睨む。
「では、さっそく禊に──」
「桜木」
踵を返そうとした桜木を呼び止める。
露李は微笑みながら口を開いた。
「──花霞のことをどこで知ったの?」
「…は?」
風花姫の使命を、一族とはいえ桜木レベルの使用人が知るはずがない。
桜木は不思議そうに露李を見てから、答えた。
「克雪(かつゆき)様です」
「あら…克雪がそのようなことを?」
「はい。…何かご不満がございますか」
尚も不思議そうな桜木にもう一度微笑み、いいえ、と返す。
桜木は怪訝そうにしつつ、説明を始めた。
「露李様には禊をして頂きます。その際、私がお世話を致します。また、守護者様は別室で待機して頂きます」
「あの。桜木さん、と仰いましたか」
文月が口を挟んだ。
はい、と遠慮がちに返事が返ってくる。
「私達は姫様をお守りするために仕えています。そのため、守護者として姫様のお傍を離れるわけには」
「…そのようでしたら、お一人だけをお通しするようにとのことです」
文月の笑みに負けたかのように桜木はそう答え、五人を見た。
「では、どなたかお一人」
「結」
文月が結を呼び、それまで黙っていた結が前に出た。
「風雅様、ですね。では皆様こちらへ」
桜木について、一行は中へ足を踏み入れた。


