露李と結が見えなくなってから、奥へ進み岩場へ着くと、そこに文月の姿があった。
「疾風か」
「…どうしたんですか」
分かっていたはずなのに今気がついたようなことを言う。
そこに居るのに、姿を現さなかったのにも理由があるはずだ。
「よく気づいたね」
「どうして隠れてたんですか」
誤魔化されてくれないねえ、と文月は苦笑する。
「別にそんな大層な意味はないよ。でも、何だかあそこに出て行きたくなくてね」
「?それはどういう…」
「疾風さ、露李ちゃんのこと好き?」
斜め上をいく質問に目を見開いた。
まあ座りなよ、と文月が言う。
よく皆で遊んだ岩場で、少し歩くと洞窟がある。
風雅家の秘密が明らかになったとき、自分が結を追って来た場所だった。
「…そうですね。同い年ですし、大切な仲間です」
「それだけ?」
文月は悪戯っぽく問いかけた。
──何が言いたいんだ、この人は。
「俺は、露李ちゃんが好きだよ」
「それは皆でしょう。あいつを嫌いになれるやつは、あまりいない」
そこまで言ったところで文月は笑い出す。
「あははは、あー、やっぱり疾風は堅物だね。気持ちに気づかせてあげるつもりはなかったんだけど」
「何を……」
「女性として、って言ったら分かる?俺は露李ちゃんを守りたい。誰にも渡したくない。俺の前で笑ってほしい、信頼してほしい。…好きなんだ、あの子が」
顔が熱くなるのが分かる。
しかし、何故わざわざ自分にそれを言ってきたのか分からない。
加えて何故それが姿を現さなかった理由になるのか。
──だけど、覚えがある。
守りたい、笑顔が見たい。
それも有明たちと戦ったあのとき、感情を操作されたあのとき、自分はハッキリと嫉妬心を抱いた。
これが恋だというのなら、俺は。
「分かってるよ、疾風の気持ちも」
「何で…何でこんなことするんですか」
この気持ちが何だか、気がついてしまえば。
もう、元には戻れないのに。
文月はまた少し笑う。
「酷い顔してるね。そう思ってるってことは、そういうことになっちゃうのか」
「鎌を、かけたんですか」
うん、と文月は頷いた。
そのまま、ごめんと呟く。
「でもさ。俺が欲しいものとか好きなものとかは、全部結と同じって相場が決まってるんだよ。譲らなきゃいけないときは譲ってきたけど…露李ちゃんだけは譲りたくない」
「…それは俺も同じです」
理津がもし、露李を好きだとして。
諦められるだろうか?
「でも、選ぶのは露李です。俺達じゃない」
そう言うと、文月は目を見開く。
そしてまた苦笑した。
「本当にそうだ。…何だろ、露李ちゃんと結が話してるところ見たら動揺しちゃって」
「らしくないですね」
「本当に。──本当にらしくないよ」
戻ろうか、と言う文月に追いすがるように声をかける。
「俺達は仲間です」
文月はまた振り返り、いつもの笑顔で笑った。
「当たり前でしょ」
何だかよく分からない、と疾風は溜め息をついた。


