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 神社の周りに結界を張り巡らし、花霞が万一暴発しないように術をかけ直し。

力を合わせて出来るだけの対策をした。

それも“神”の前では無謀なことかもしれないが、何もないよりはましだ。


朱音が来る気配はなく、何かが迫ってくる予兆もない。

たた皆の胸に不安が募るだけの時間が過ぎていった。

露李は一度巫女服に着替え、境内を磨き、周りの木々たちに祈りを捧げた。

自分が以前、傷つけられたときに守ろうとしてくれた生き物たち。

彼等もまた、この戦いの犠牲になるかもしれない。


力を解放し、“声”を聞ける状態で全てのものに語りかける。

今まで声を返してくれたことはなかったが、それでも良かった。


──ありがとう。ごめんなさい。貴方たちの平安を壊していたのは、この私だった。


ざわざわと木々が鳴り、風が吹く。


【──我らは】


「え?」


思わず顔を上げた。


【我らは、風花姫──露李様と共に】


初めての声だった。

涙が溢れる。


「ありがとう」


最初で、最後だろう。


もうこの声を聞くことはないだろう。

そしてもう、賑やかに食事をすることも。

もう、口喧嘩をすることも。


もう、無くなるかもしれないのだ。

二度と。


顔を覆った。

涙を見せまいと、祈祷だけは一人になることを許してもらった。

何を願えばいいのかもう分からない。


ただ一つだけ──守護者たちや、自分の兄代わりや、初めての女友達のことや、そして自分とかつて戦った者たち。

彼等の幸せをただ、願っていた。


「───露李」


名前を呼ばれた。

いつも自分を助けてくれて、温かくて、強くて。

優しい、大切な声。


「結先輩。すみません、遅かったですか?」


そう言いながら立ち上がる。

泣いていたことは気づかれなかったようで、いつもの笑顔の結が立っていた。


「いーや。けどあんま一人にするのはちょっとなー」


「そうですよね、今から行きます」


走って集合場所である神社の鳥居に向かおうとすると、結に腕を掴まれる。


「なー露李。俺との約束、覚えてるか?」


振り返ると、いつになく強い目で結がこちらを見ていた。

その翡翠ににっこりと微笑む。


「約束?」


聞き返した瞬間。


凄まじいものが迫ってくるのを感じた。



「…何か来るな」


結が空を見上げて呟く。