「お帰りなさいませ、頭領!!ようこそ、風花姫様!!」
ここは果たして、極道の家だっただろうかな、という考えが頭をよぎった。
いや、風花姫とか言ってるし違うか。
しかしながら、門戸を開けた瞬間、何十にも渡る人々が列をなして膝まずいている。
「悪い、露李…」
疾風が額に手を当てて詫びる。
「いや、良いんだけど全然。驚いただけだよ」
「ごめんねー、いつもこんな感じなんだよ」
「それは貴様らの流儀か何かなのか?」
文月の困り笑顔に水無月は感心したように尋ねた。
露李も驚きながらその中を進む。
予想していたよりかなり歓迎されているというか。
そんなことを言ったら失礼なのだろうが。
「結様!お待ち申し上げておりました!」
「よー宝。元気だったか?」
「はい!」
横を見ると、結よりも年上だろう男性が嬉しそうに駆け寄ってきていた。
年の頃は大学生くらいか。
歳上なのに敬われている、という事実が結の実力を感じさせる。
頭領としての顔で歩く皆が、いつもと違って見えた。
風花姫と同じで、一番力の強いものが頭領になっているのだろう。
「文月さん。また会えて嬉しいです」
「ありがとう秀介」
眼鏡をかけた真面目そうな青年が文月に声をかける。
それににこりと微笑みを返す文月。
「疾風様、ご無事で何よりです」
「ああ」
ガタイの良いオヤジさんにいつもの仏頂面の疾風。
カオスだな、と一人思う。
露李を囲むようにして守護者たちが歩いているせいか、周りが見やすい。
「理津兄、お久しぶりっす」
「よー武。元気そうじゃねぇか」
強面の青年が綺麗にお辞儀するのを、いつものように気だるげに見やる理津。
「静様、お帰りなさいませ」
澄んだ声で静を呼んだのは、大人しそうな少女だ。
薄い桃色の着物を身に纏い、落ち着いた表情で見つめている。
「ただいま、澪子ちゃん」
慣れた様子で応じる静。
持っていた少量の荷物まで彼等に取り上げられ、完全なる手ぶらになってしまった。
しっかりと造られた風流な庭園を歩いて行く。
奥の本邸に着くと、そこにいた人々が膝まずいた。
「…風花姫様」
女性が二人、男性が三人。
頭を垂れている彼等は露李よりも遥かに歳上だ。
そのことに怖じ気づき、思わず隣にいる水無月を見上げる。
「ど、どうしよう兄様なんかお辞儀してる人がいっぱいいる」
「大丈夫だ、落ち着いて」
小声で言われ、パニックを鎮めた。
結が露李の耳元に唇を寄せて囁く。
「何でも良いから、命じろ。とりあえず頭上げさせてやってくれ」
急に縮まった距離に驚くも、こくこくと頷く。
「あ…あの。顔を、上げて下さい」
精一杯威厳のある声で。
着物姿の五人が立ち上がる。
二人の女性は、その翡翠と萌黄の瞳の色、そして顔つきで結と静の母親だと分かった。
男性三人も、藍に浅葱、紫の瞳だ。
「母上。ただいま戻りました」
結が口を開いた。
彼女の髪は結よりも濃い金色をしている。
「久しぶりね結。元気そうで嬉しいわ。…姫様。お初にお目にかかります、風雅 結の母、風雅 詩衣でございます」
「神影 露李です。えと、本日はお日柄も良く…」
言ってしまってから、何だそれはっ、と心の中で舌打ちした。
「ふふ、そんなに緊張なさらないで下さい」
朗らかに笑う詩衣。
「可愛らしい姫様ですわね詩衣。姫様、静の母、葵にございます」
「そ、そんな可愛らしいなんて」
葵は上品に微笑みかける。


